秋のメッセージ
変わりゆくものに一抹の寂しさを感じるようになりました。以前はそんなことなかったのに、心がチクッとしたような気持ちにときどきなってしまう最近の私です。
秋だからでしょうか。昔から“女心と秋の空”という言葉があるように、移ろいやすい季節でもあります。気持ちもおんなじなのかもしれません。この10月、二度銀座に行く機会がありました。若い頃から渋谷と新宿はどちらかと言えば苦手で、週末など家族と出かけるときにも銀座や日本橋に行くことが多かったように思います。今ほど、ブランド店が立ち並んでいなかったし、古い風情をもたくさん感じることが出来る銀ブラを家族3人で楽しむ週末が好きでした。三越のレストランも好きでした。今のように世界の味を楽しめるようなレストラン街などはありませんでした。広いフロアに、中華も洋食も和食もそして旗を載せたお子様ランチまで全部選ぶことができるレストランで、いつ行っても「ねえ、ねえ何食べる?」とショーウインド―におでこをくっつけるくらい顔を近づけて、母と妹とワクワクしていたあの頃でした。私の故郷長崎には浜の町という大きなアーケード街があって、当時は浜屋、岡政、S東美という名前のいわゆるデパートがいくつかありました。そこでも食事するときはいつもデパートのレストラン。サクランボが一つのったクリームソーダか、プリンアラモードが私と妹のデザートの定番でした。
久しぶりに銀座に行って感じたのは、なんと外国人の多いこと!ということ。アジア系の人たちよりも、欧米人のツアー客をあちこちで見かけました。上りのエスカレーターに乗ったときも、私の前も後ろも外国人。反対側の下りエスカレーターにも乗っているのはほとんど欧米の観光客でした。聞こえてくる会話も英語ばかりで、一瞬、あれ私ニューヨークにいる?って、苦笑したほどでした。歩行者天国の日でしたので、懐かしい気持ちで銀ブラをしましたが右を見ても左をみてもブランドビルが殆ど。増えていることは知っていましたが、ちょっとの間にまた増えた気がします。水着と言えば、いつも和光と三越前の交差点にある三愛で買っていましたが、昨日、そのビルも解体作業中であることに気がつきました。嬉しかったのは、西銀座デパートが入っている辺り、数寄屋橋交差点にある不二家がそのまま同じ場所にあったことでしょうか。
今週は九段下にも行きました。九段下はOL時代、よく散歩をしたり食事をする界隈でしたが、飯田橋に向かう途中、あのホテルがないことに気がつきました。ホテルグランドパレスです。初めてあのホテルで食事をしたとき、戦後史の記憶に残る出来事があったことを知りました。1階にあったカトレアというレストラン。そこのピラフは本当に美味しかった。それからオレンジピールがたっぷり入ったオレンジケーキも私のお気に入りでした。当たり前ですが、日本武道館や靖国神社がそのままの場所に、昔のたたずまいのままあることにほっとしながら、その日はOL時代何年も通った市ヶ谷の駅まで歩きました。毎日たくさん郵便物を出しに行っていた郵便局も工事中、駅近くにあったお気に入りのランチ場所であった店ももうありませんでした。歩いて、探して、感じて。昔の自分の足跡をたどりながら自分が感慨深い気持ちで歩く姿など、ちょっと前までは想像もしていませんでした。
変わらないものなど何もない。
もちろん知っていますが、それでも寂しいと思うのはきっと秋のせいだと思いたいです。高く澄んだ青い空を見上げながら、来年こそは、幼稚園から小学校低学年時代の自分の足跡をたどる旅をしたいと思い始めました。ねえ、お母さん、私もお母さんもそして妹も忘れていることたくさんあるはずだけど、間違いなくあそこで過ごしたあの場所を探してみるのもいいんじゃないかしら。
時間はいくらでも無限にあると思っていたのはいつだったか。日々を心から大切に過ごそうと思いはじめた今もそう悪くはないような気がします。だけど、町の小さな本屋さんが見つけづらくなったことはやっぱり寂しいです。20代の頃、六本木の交差点にあった本屋さんももうとっくの昔になくなりました。買いたい本がなくても時間があればあの本屋さんに入り、思いがけず心に響いた本を見つけると立ち読みしたり、購入したり。はたまたデートの待ち合わせもあの本屋さんでした。相手が遅刻しても全く気にならないのが本屋さんの魅力でした。今ではすべてが何でも出来る、本だってネットですぐに手に入る時代ですが、ぶらり街歩きも、ちょっと本屋さんへの寄り道も、今の私の日常に楽しみと喜びを与えてくれる大事なひとときです。ビジネスシーン以外は、昔ながらの生き方をしてもいいよねえ、そんな独り言をしながら秋の夜長を楽しんでいます。
11月もそれほど寒くはなさそうですね。もちろん東北や北海道は既に冬支度かもしれませんが、東京は爽やかな秋の空気をもう少し心地よく感じることが出来そうです。それでも季節の変わり目、どうぞお気をつけてお過ごしくださいませ。
坪田まり子